独占、反対!

orpheus2004-07-11

選挙の開票結果を見ながら、Windows版のiTunesでCDをリッピング。数ヶ月程かけて手持ちのライブラリの半分程度をAAC(標準の128kbps)にエンコードしてきたが、既に現時点で12,000曲、通しで聞いても1ヶ月程度の量になってしまった。「手持ちの音楽を全部外に連れだそう」というのがiPodの当初のキャッチコピーだったが、現行で最大のモデルでも40GB(約10,000曲)しか入らないし、購入していたら容量不足に悩まされていた事だろう。今月末には国内でもiPod miniが発売されるが、あちらは4GBだから始めから対象外。

なお、実際にiPodを通勤で使っている人にその使用感を尋ねると、激しい競争の中でポータブルオーディオを開発してきた他社製品(例えば、ソニーのMD)と比べるとリモコンは使いにくい、誤動作は多い、消費電力が多すぎる、など不満は少なくないようだ。満員電車の中で本体の液晶なんて見る余裕もない日本では、やっぱり痒いところに手が届く製品が便利、というよりもそこまで配慮することが求められる。狭い道路だらけの日本に大きなアメ車が適さなかったように、海外のニーズに合わせて作られた製品をそのまま日本に持ち込んでもフィットしないのだ(ファンにとってはそういった欠点も「あばたにえくぼ」なのかもしれないが)。MDやmp3プレイヤーが氾濫する市場の中で冷静に眺めて見れば、iPodは小型HDDにアップル製のソフトを組み込んだオーディオプレイヤーの一つに過ぎず、ハードウェア部分の作りやインターフェースについては、まだまだ改良の余地がある(iPod miniでは多少改善されたようだ)。

一方、アップルのサイトで無料配布されているiTunesは、ご存じの通り、CDからオーディオファイルをPCに取り込む機能と、PC上の音楽ファイルを一元管理する機能が統合された便利なソフトだ*1。このiTunesの核となっているのがAACというコーデック*2で、iTunesエンコードされたAACは他社のハードウェアとの互換性はなく、専用のハードウェア(iPod)を買わない限り、持ち歩けない。その結果、iTunesは便利で使っているがiPodは使いたくない、というユーザーには至極不便な状況が生じている。

“Good-Bye MD”と野暮なCFを打ち上げたアップル。確かに初期のATRAC*3と比べるとAACの方が音は良かったが、10年も前に誕生した方式よりも音が良いのは驚くべき事ではない。では、このAACという規格が今後は普及していくのだろうか? 普通、新しい規格を普及させるためには多くのハードウェアとの連携が欠かせない。かつて、ソニーはビデオの規格(ベータ)で失敗した経験を踏まえ、MDの規格化にあたってはオープンな姿勢(他社への呼びかけ)をとって普及に成功した。AACがこういったポータブルオーディオ業界の規格に取って代わるつもりなら、AppleiTunesiPodという独自路線だけでなく、iPod以外の他社のハードウェアでもiTunesを利用できるよう、もっとオープンな姿勢をとるべきではないだろうか。

・・・などと書いているうちに選挙結果が出揃ってきたようだ。大方の予想通り、民主党議席数を伸ばしている。iPodとMDではないが、政治の場合も一党による独占状態は好ましくない結果を生む。二大政党制が日本という風土に最適な形かどうかは分からないが、より望ましい政策を有権者が常に選べるよう、政党間の政策論争や選挙を通じて「選択肢」を有権者に提示していく一層の努力を、各政党に望む。

*1:日本では実現していないが、アメリカでは好きな曲をオンラインで購入して、直接iTunesにダウンロードすることもできる。

*2:AACはアップル独自の技術ではない。ドルビーやソニーが参加するMPEG標準化団体によって開発されたオープンなフォーマットである。

*3:MDのコーデック。93年頃の初期版はかなり音質が悪く、非圧縮のDATユーザーから非難された。現在はすっかり改善され、ATRAC3の132Kbps程度でも圧縮していないオリジナルとの差を聞き分ける事はかなり難しい。なお最新のATRAC3plusではAACを凌ぐ高音質の256Kbpsが加わり、アップルは対抗してLossless Encoderを導入した経緯がある。