ライブドア暴走に手を貸した金融庁

検証・ライブドア時間外取引 金融庁拙速 “脱法”にお墨付き

時間外取引は、そもそも機関投資家などが持ち合い解消などで大量の株式を売買する際に、株価乱高下による一般投資家への影響を防ぐために事実上の相対取引を認めたもので、経営権取得を目的にした利用を想定していない。ライブドアはこの法の隙間を突いた。

「あの取引を見た瞬間に売り手と買い手との間に何らかの意思が通じていたのではないかと思った。そうでないとあれだけの量の株が、ある一定時刻に一瞬にして成約するというのは不自然だと感じた」(与謝野金融相、当時は自民政調会長)

事前合意があれば「灰色手法」では済まされず、「犯罪」となる可能性がある。株数や株の買い付け価格など売買に関して事前の合意があれば、経営権取得を目的とする際には「TOBを行わなければならない」とする証券取引法TOB規制に抵触するとの解釈が可能になるためだ。

(事前合意があったとする)疑念を裏打ちするような発言がある。昨年3月3日、日本外国特派員協会で行われたライブドアの前社長、堀江貴文被告の記者会見だ。(以下、堀江貴文村上世彰の発言)

なぜ、金融庁は事前合意の有無など十分な検証もしないままライブドア時間外取引を容認する判断を下したのか。(金融庁幹部は)ライブドアの手法を「違法ではないが、脱法的」と批判する一方、「(ニッポン放送の)経営をやらしてみてもいいんじゃないか。産経新聞ライブドア傘下になったほうがいい新聞になる」などと、ライブドアのメディア買収に肩入れするかのような発言を繰り返していた。(略)このときの金融庁の判断がライブドア時間外取引を「合法」とする流れを形作ったことは疑いがない。

ライブドアによる時間外取引を「TOB逃れ」と関心を示していた検察幹部が「なぜ、金融庁は早々と違法性がないと言ってしまったのか」と不快感を露わにする場面もあった。金融庁が「合法」との判断を下してしまうと、たとえ摘発しても公判維持が困難になってしまうからだ。

影響は司法にも及んだ。ニッポン放送によるフジテレビへの新株予約権発行を差し止めを求めたライブドアの仮処分申請を認めた東京地裁、東京高裁は、ともに時間外取引の違法性を訴えるニッポン放送側の主張を退けた。地裁決定では、衆議院予算委員会での七条明金融担当副大臣による「現行法上基本的には違法と評価できない」との答弁を引用し、違法性を認めない根拠にあげたほどだ。

このときの金融庁の判断は民間企業の命運を大きく揺るがした。お墨付きを受けた堀江被告は当時、「ずるいといわれようと、合法だったら許される」と言い放ち、違法スレスレの経営手法を容認する風潮が広がった。ライブドアの暴走は東京地検特捜部の強制捜査を受けるまで止まることはなかった。 

監視する立場にある金融庁が早々と“脱法的手法”にお墨付きを与えたことで、ライブドアの暴走は加速していった(三権分立の観点で言えば、最終的に違法かどうかを判断する権限は金融庁証券取引等監視委員会にはない)。したたかな海外のファンドによる株価操作と大量の株式売り抜けが常態化している今、こうした金融庁の“気の緩み”や“驕り”は日本の金融市場に多くの隙を作り出している。市場は、許認可の意識しかもたず、政治家と馴れ合っている時代錯誤な役人ではなく、肥大化・複雑化した金融市場を厳格かつ偏りなく監視*1するプロフェッショナルの集団を求めている。

*1:もちろん憲法31条は順守の上で。