さらば、YouTube ニコニコ動画に小沢一郎が登場

与えられたパンに市民が満足する時代はとうの昔に去った。もし、見ている映像に誰もがリアルタイムでツッコミが入れられたら(コメントの質は期待できないとしても)予想外の価値観の激突が見られて面白いに決まっている。しかも、YouTubeのように外国語を意識する必要もなく、母国語で盛り上がることができるなら尚更だ(人が楽しむためにはリラックスしなくてはならない)。
ニコニコ動画がブレイクしたのは、インタラクティブ性に欠ける映像メディアに2chの祭り感覚を組み合わせるというアプローチが、Web2.0という時代の潮流に便乗しつつ、ムラの中で莫迦騒ぎするのが好きな国民性とうまくフィットしたからだろう*1。例えばこの動画などを見てもらえば分かると思うが、コメントによる相槌やツッコミが加わるだけで《同じ時間と空間を皆で共有している》というライブ感(あるいはお茶の間感覚)は飛躍的に高まる。実に「ゆるい形」ではあるが、作品を鑑賞する側のリアクションを擬似共時的にシェアする楽しさをニコニコ動画は提案している訳だ。
話題になっている動画でまず試聴し、好きかどうかを見定めた上で実際の商品を購入する。こうした新しい流通の流れも形成されつつある。作品を制作・供給する側も古い著作権的な考え方を捨て、こうしたユーザー側の鑑賞方法の変化に柔軟に対応することが求められるだろう。著作権が本当に保護すべき対象は、このような注目度の高いコンテンツ(つまり売れる作品)ではなく、その芸術性や実験性の高さゆえに需要の少ない文化遺産の類いなのかもしれない。動画に限らず、デジタルデータ化された商品は規制をかけてもネットにすぐ出回ってしまう。それらを根絶させる努力はもちろん必要だが、より重要なのはこうした後ろ向きなイタチごっこの規制ではなく、常に新しいコンテンツを生みだそうとする創作的態度なのである。
さて、そのニコニコ動画だが、国政選挙という国内最大の政治的祭りを前に、炎上必至と思われる時事ネタが9日に登場して話題となっている。民主党・小沢一郎の動画配信である。開発者ブログを読む限り、配信を打診したのはニコニコ動画側のようだ。

みなさんもよくご存じの通り、ニコニコ動画は自由にだれでも好きなことをいいあえる空間です。自由にしているのは、別にお互い罵りあう殺伐とした場所をつくりたいわけではなく、究極的にはみなさんが暖かい心でお互いにふれあいたいと思っているし、そうするだろうと、信じているからです。実際、今回も最初の1時間は、へんな書き込みもありますが、ほとんどはたとえ反対意見であったとしても真面目なコメントでした。

ですが、今回のような大きなイベントのときには悲しいですが、必ず荒れます。たとえ否定的なコメントであろうとも、前向きな議論になるのであれば賛否両論あるのは当然だし、かまわないと民主党側からはいっていただいていましたが、正直、ニコニコ動画をよく知っている我々からしてみれば、動画の中身とは、まったく関係のない嫌がらせのような書き込みが集中して荒れまくるだろうことは、火を見るより明らかでした。ですから、ニコニコ動画側から、前例はありませんが、24時間監視をつけたいと(動画提供者の民主党に)申し出たわけです。

(中略)

ここで今回のコメント監視の目的とルールについて説明いたします。

みなさんご存じのとおり、そしてご想像のとおり、公式動画として配信した場合に今回のような話題性の高い企画の場合は、間違いなく荒らしが出現します。ニコニコ動画の可能性を広げるために今回はあえて、コメントの監視をおこなわせていただくことにしました。みなさんのご理解とご協力をお願いいたします。

削除対象とさせていただくのは以下のとおりです。悪質な場合はアカウントを停止いたします。

・動画中の顔などへの落書き行為。(例)角を生やしたり、肉と額に書き込む行為など。
・動画への同一画面や隣接する時間への連続した大量の書き込み。(例)弁明
・明らかにひとを罵倒するような表現や猥褻な表現。(例)しね、など
・誹謗中傷、あるいは動画の雰囲気を悪くすることを目的とするような書き込み

まじめなものであれば動画の内容や小沢一郎さんに否定的なコメントであっても削除しません。

また、個々の削除についてはなにぶんリアルタイムに複数の人間が別々に判断を下すため、完全に同じ基準にはならないことをご了承ください。

また、別アカウントの取得による荒らしを制限するために本来の趣旨からは残念ではありますが、ID番号が170万番までのひとのみ書き込みができるようにいたします。

最後になぜ民主党だけなのかというご意見もありますが、今回は第一回目です。われわれは急成長はしていますが、まだスタートしてから、4ヶ月にしかならないサイトです。民主党代表がでていただけただけでも奇跡に近い出来事です。残念ながら今回は他政党の政治家のかたとは交渉の窓口にも到達できませんでした。今回のイベントを成功させて、今後は広げていきたいというのがわれわれの希望です。

炎上を想定してニコニコ動画側が用意していた「荒らし監視ツール」にトラブルがあったせいもあろうが、寄せられたコメントは案の定、野次的なコメントが多かったようだ。秋葉原の一件はどうかと思うが、炎上覚悟でこうした2ch住民の多いレイヤーにも語りかける民主党の心意気は評価したい。全ての国民の要望に応えられる政党などありえない以上、より多くの国民の意見を聞こうというオープンな態度こそ、政権与党に一番求められる要件だと筆者は考えている。民主党もその成立の事情ゆえに昔は労組寄りなところがあったものの、「第三の道」を標榜する若手政治家の台頭もあり(勇み足ではあったが)、国民政党として今はかなり視野が広がったと思う。世論を見ても、小泉以降、右に寄り過ぎた国会を中央に戻すために今回の参院選と次の衆院選民主党だろうという流れも何となく醸成されてきている*2。もっとも、官僚を甘やかして不祥事を招き、大企業と金持ち優遇で格差社会を拡大させ、アメリカに追随して自衛隊イラクに派遣して国民主権を危機に晒した自民党*3や学会員優遇で国民不在の公明党改憲を全否定し左に寄り過ぎの社民党イデオロギーありきの共産党という他の選択肢では選びようもないが。物議を醸したブッシュも来年で任期終了、アメリカもリベラル路線に転ずる兆候が見えているし、中国や韓国もより協調的な日本人政治家と交渉したがっている。一方で、北方領土問題でプーチンと渡り合えるタフな政治家は小沢一郎ぐらいしかいない。となると、やはり民主党だろう。
「自由にだれでも好きなことをいいあえる空間」など存在しない。だが、そうした幻想を信じられる空間はあっても良いと思う。

*1:ニコニコ動画の監修者のひろゆき氏の「ミュージシャンのプロモーションビデオ(PV)は、サイトに載っていてもファン以外はまず見に来ない。だが『こういう突っ込みをするとこのPVが実は面白い』という視点があれば、ファンとは別の視点から面白がってもらえて、見に来てもらえる」という狙いがうまくハマったと言える。詳しくはITmedia Newsの記事を参照。ひろゆき氏は2ちゃんねるの運営者でもある。

*2:今回の参院選で争点となっている社会保険等の問題は、官僚の仕事をチェックせずに甘やかしてきた歴代内閣に責任がある。戦後、ほとんどの内閣に省庁の監督者たる大臣を供給してきた自民党が厳しい非難を受けているのは当然。また、現役大臣の自殺や辞任がここまで続くのも異常。安倍内閣と自公連立政権のもたらした政治的混乱は国民の利害を著しく損ねている。

*3:これが国民の合意に基づいて改憲された上でのイラク派遣であったならまだ問題はなかった。