浅知恵とそうでない知恵

orpheus2006-03-17

「はっきり言うと、これは文化破壊」--坂本龍一氏らがPSE法に対する要望を発表

(坂本氏は)「このままでは専門機器を支える中古機器販売や下取り市場も閉鎖せざるを得ない状況になり、これからの日本の音楽と芸術文化の発展に大きな支障をきたすことになる。はっきり言うと、これは文化破壊だ」と語り、PSE法の早急な改正を望んだ。また楽器以外の電気製品についても「文化財といえるすばらしいデザインの製品がある。各業界団体が同じように声を上げて、問題が根本的に解決されればいいと思う」とコメントした。

今回の騒動で在庫処分を行った中古業界はかなりの痛手を被った。すでに廃業に追い込まれた業者もいる。文化財とは呼べないような代物もあるとはいえ、古くなった製品を使い続ける権利を侵害するPSE法は、まだ十分に使うことのできる製品を廃棄させ、ゴミにしてしまう“環境破壊法”であり、消費者の“もったいない”という気持ちを踏みにじる悪法。環境問題にどう取り組むかという課題を抱えるこの時代に、ものづくりの国がものを大切にしないのでは話にならない。新しいものだけを追い求め、処理スピードが遅いだとか、効率的でないからといって古い資産*1を使い捨てにする態度は、どの国からも尊敬されない。小渕政権だか森政権だか知らないが、よくもまあこんな“浅知恵”の景気対策*2を作ったものだ。個性的なヴィンテージ楽器の艶やかな音色を奪うような悪法は、直ちに改正するか廃止すべきである。

画像はRoland JUPITER-8。PSE法に反対する音楽家たちの映像では海外の機材ばかりが演奏されていたようなので、あえて国産で。それにしても、ヴィンテージ楽器を擁護する面々の中で東儀秀樹が一番目立っていたのはなぜ? 確かに彼はシンセも使うが、彼の専門は何といっても雅楽器だ(確かに雅楽器もヴィンテージものには違いないが、今問題になっているのは電子楽器である。少し場違いな気がしなくもない)。世界のサカモトや喜多郎が帰国できないのは仕方ないとして、ここはぜひ冨田勲細野晴臣といった巨匠たちにも登場してもらって、ヴィンテージ楽器の魅力を大いに説いてもらいたい。悪法が契機となってしまったとはいえ、若い世代に昔の楽器の魅力を知ってもらうよい機会なのだから。
電気用品安全法の経過措置の一部終了に伴う対策について経済産業省
PSE法、「ビンテージ品のみ除外」に困惑する中古業者

*1:これは社会にも当てはまる。すでに引退した年長者や、引退を迎えている団塊の世代の“知恵”が下の世代に正しく引き継がれなければ、勝ち組・負け組という二分法に囚われ、マネーゲームに興味津々の若い世代がこの国の文化的・歴史的資産を食いつぶすのは目に見えている。いつの時代においても、若い世代というものは自分のことで手一杯であり、全体を慮る“知恵”に乏しいのが常である。しかし、堀江と同じ世代に属している自分が上の世代に対してこのような苦言を呈しなければならないほど、団塊の世代の認識は甘く、“知恵”の継承に消極的であるということはあえて指摘しておきたい。もはや以心伝心で何とかなる時代ではないのだ。

*2:法案を起草したのは経済産業省の中堅官僚だろう。