安倍内閣が崩壊寸前

内閣支持28.8%に急落=年金不信が直撃、発足後最低に−時事世論調査

安倍内閣の支持率は前月比10.6ポイント減の28.8%に急落し、昨年9月の政権発足後最低を記録した。内閣支持率が「危険水域」とされる3割を切ったのは2001年4月の森内閣以来で、小泉内閣では一度もなかった。一方、不支持は政権発足後最高の48.4%(同14.8ポイント増)。年金記録漏れ問題に対する国民の不満や不信が安倍政権を直撃した形で、来月公示予定の参院選にも響きそうだ。

ポピュリスト小泉純一郎の人気で延命していた自民党政権もそろそろ年貢の納め時である。彼らが公明党の協力で21世紀へと生きのびたことで、本来ならば90年代に清算すべきであった政治的・社会的課題が山のように放置されたままなのだ*1。迷走を続けるこの国はどこへ行くのか? 国政選挙を控えた今、国際社会という荒海の中を漂うばかりで舵取りもままならぬ自公政権に果たして存在意義があるのかどうか、一国民として少し考えてみた。
思えば、小泉と堀江貴文リバタリアニズムというコインの表と裏のような存在だった。小泉は「自民党政治を中からぶっ壊す」と国民にアピールして首相になったが、壊したのは自民党ではなく、日本社会が戦後築いてきた自尊心と規範だった。あの忌まわしい自衛隊イラク派遣を思い出してほしい。日本が巨費を投じてイラクに“水まき”に行ったことで状況が何か好転しただろうか? 新兵器のデモンストレーションよろしく米軍がゲーム感覚で破壊した学校や病院を我々の血税を投入して修理する、すなわち日本はイラク復興に協力するという名目でブッシュの尻ぬぐいをさせられただけなのだ。実際、最新の装備で身を固め、鳴り物入りで中東に入った自衛隊だったが、現地では外国の軍隊に護ってもらっての救援活動を強いられ、海外からは“戦争ごっこ”と揶揄された。また自作自演の戦争*2を始めたブッシュ政権が先進国の中で孤立している*3のは自業自得であり、あの不毛なイラク戦争に小泉・自公連立政権が荷担しなければ米軍はもっと早くに撤収をせざるを得なくなり、イラクの悲劇はここまで大きくなる前に終息していただろう(それは単にイラクの民衆と米兵の死者の数が減るということだけではない。キリスト教世界とイスラム教世界の間に生じている亀裂をこれ以上深めないために、アメリカとは単なる同盟国以上の関係にある日本が本当になすべきことは何か?という視点が日本の為政者に欠けていることが問題なのだ*4)。なお、コインの裏側にあたる堀江貴文が日本社会をどれほど騒がせて迷惑をかけたかは、ここで取りあげるまでもないだろう。
さて、与党の失敗は外交問題だけではない。財政問題にせよ、環境問題にせよ、教育問題にせよ、彼らの状況まかせの政治判断(分かりやすく言えば、借金がかさんでこれ以上の負けがもはや許されないにも関わらず、自分の成績しか頭にない選手たちにプレーをまかせ、勝負どころで必要なサインを出せない三流監督のようなものだ)は国民を確実に戦後最悪の状況に追い込んでいる。選手も選手だ。国の根幹を支える責任の重さを自覚せず、危機意識も全然足りない。国内No.1と言われた社会的地位を外資系企業に奪われたぐらいでクサり、天下りに対する世間の風当たりに怯え、セコイ予算ゲームに引き籠もって卑屈になっていてはダメなのだ。省益を越えて国全体の利益を考えている官僚がどれほど存在するのだろうか。こうした国家官僚に緊張感を持たせるためにも、彼らを用いる側の意識刷新、すなわち政権交代が不可欠なのである。その指標となる内閣支持率もついに30%を切った。農水大臣の職務放棄(自殺)や年金問題(役所の合併で行政改革を終えたつもりになり、官僚の利権争いを内閣が抑えられなかったことも今回のトラブルの一因となっていると思われる)によって完全に信を失った安倍“リバタリアニズム継承”内閣をクビにする権限は主権者たる国民の側にある*5。また90年代の終わりに自民党と手を結んで延命させ、日本の社会民主主義の芽を摘んだ*6ばかりか、その後も自民党と連携することで格差社会を実質的に擁護し、潜在的な社会不安を煽って勢力拡大を目論んできた公明党も“行政の独走”をもたらした共犯者として、有権者に三行半を突きつけられる可能性が高い。

*1:ついでに言えば、日本共産党も歴史的な役割をとっくに終えている。マルクス主義の不幸は労働階級にユートピア思想として錯覚されたことに起因するが、民衆に神格化された思想はいつの時代の権力者にとっても都合のよい隠れ蓑となる。マルクス主義がその理念の対極ともいえるスターリニズムに陥って消滅したのは何とも皮肉だが、当然の帰結でもあった。なお、日本の左翼思想ないし左翼政党が西洋社会のそれと比べて著しく未成熟である理由は労働問題の歴史に詳しい人には自明のことであるから説明は省く。というより、これを読んでいる人は皆すでに労働者であるか、あるいはいずれ労働者となるのだから、日本の労働史ぐらい勉強すべし。そもそも、自分の国の労働問題がどう展開されてきたかも知らずに経済学や社会学の枠組み(グローバリズムを無批判に是認、あるいはポジティブという言葉で問題を隠蔽するような底の浅いものは特に危険である)だけで労働について語ること自体が不毛といえる。もっとも、あらゆる人種のなかで一番不毛なのは現状肯定と妥協を信条とする保守主義者たちなのだが。

*2:イラク大量破壊兵器があるとアメリカは主張して戦争に突入したが、実際にそのような証拠は発見されなかった。ブッシュと米軍の狙いは最初から現代のネブカドネザルを標榜するフセイン政権の打倒と中東オイルに対するイニシアチブの獲得であった。ストイックなまでに金儲けに走るのは昔からアングロサクソンの悪い癖である。

*3:超大国アメリカの国際的孤立は、覇者の座を狙うロシアと中国にとって最も喜ぶべき状況でもある。彼らはアメリカの威を借りた日本のプレゼンスなど軽く一蹴する。拉致問題や領土問題といった事態が全く前進しないのは、それらを彼らが問題とさえ思っていないからに他ならない。

*4:これは、日本が主権国家である(アメリカの政治的属国ではない)ことを主体的に証明せよ、というアイデンティティの問題である。

*5:国民は国政選挙を通じて間接的に意思表示することしかできないが、これは決して悪いことではない。マスコミの偏向やブログの炎上など、流行や感情に流されやすいこの国の国民性を考えると、この程度の政治的関与しかシステム的に認めていない点こそむしろ評価すべきなのである。戦時中にアメリカが日本のこうした社会性をよく研究していたことが分かる一例でもある。

*6:90年代の日本政治史の最大の汚点は言うまでもなく自社連立だが、180度政策の違う相手と手を結ぶことで国民を裏切った日本社会党はその後大幅に議席を失っている。こうした状況下で公明党が自自公連立に参加したことは日本にリベラルの受け皿のない政治的状況を生み出し、小泉政権の地滑り的勝利に至る今日の保守化現象を招いたと考えることもできるだろう。