C'est la vie.

「結婚しても子供なんて欲しくないと思っていたけど、いざ生まれて子供の顔を見たら考えが変わったよ。俺の生きた証がこの子を通じて未来に続いていくんだってね。この当たり前のことが結局、一番の幸せなんだと思う」。ふと同僚のこぼしたその言葉が、僕の頭をとらえて放さない。この不確かな時代だからこそ、希望をもって未来に夢を託したいという想い。もちろんそれには大きな責任が伴う。だが、はじめから完璧な人間などいないし、完璧な家族も存在しない。不完全で不安定な人生だからこそ、ひとりでは完成できないDominantを求めて、人は歌い続けるのだろう。

――待ち続けたり、拒むばかりの人生は終わりにして、海に乗り出そうと僕は思った。遠ざかっていく丘陵に澄んだ竪琴の響きをかすかに残し、舟は小さな港を静かに出ていく。今度は長い旅になりそうだ。大きな波や嵐に襲われるかもしれない。でも僕はなぜか遠い海の向こうまで辿りつける気がしていた。北から吹いてきた優しい風に乗り、引き絞った弦から放たれた矢のように舟は海原を駆けていく。大丈夫、とささやく風の流れに僕は身をゆだねた。