越後上布

orpheus2004-11-16

今回の地震で被災した新潟県の伝統工芸について調べていたら、「越後上布」というドキュメンタリー(80-81年、文化庁企画、岩波映画部制作)を見つけたのでチェックする。上布は麻の着物のこと。以下、小千谷縮が完成するまでの流れ。

夏のうちに原料となる苧麻(ちょま。からむしとも呼ばれている)*1を7月ぐらいに刈り取り、その皮から繊維を取り出しておく(苧引き)。

12月、雪が降り積もった頃に上布作りは始まる。まずは糸作り(苧績み)から。苧麻を口に銜え、爪の先だけで苧麻を細かく切り裂いていく。細くなった糸を繋ぎ、糠と水につける(乾燥を避けるため)。さらに袋に入れ、灰汁と米の磨ぎ汁で一晩煮込み、翌日から糸を雪の上に晒すと、7日目には糸はすっかり白くなる。それを舞棒に巻き取り、糊付けしておく。

続いて、製図した柄を木羽に写し取る作業。木羽一枚が横糸一本分に相当するのでかなりの量になる。木羽の印に合わせ、色づけするところを残して糸をくくる。染め上げた糸からくくり糸を取ると、その部分は白い色のままで現れる。木片を使って糸の位置を正しながら、柄に合わせて筬に糸を組み込む。組み込んだ糸は一反分の長さに伸ばし、柄に合わせて千切に巻く。上糸と下糸を1本おきに区切り、下糸のみつり上げるための綾糸をつける。これを40本ぐらいで1まとめにして経糸は準備完了。横糸はつむと呼ばれる管に巻き取っておく。

いよいよ、機(はた)織り。小千谷ではいざりばた*2を用いている。筬に胡桃を塗って、糸の滑りをよくしておく。引き紐に通した足首を引くたびに下糸が上がる。腰を緩めて経糸の緊張を緩めつつ、杼を入れて織っていく。一反織るのに80日かかる。

こうして織り上がった布はぬるま湯で糊を落してから、柔らかくするために足の裏を使って20分ほど踏み込まれる。柔らかくなった布は風のない晴天の日に1週間ほど雪晒しにされる*3。最後に手作業で仕上げを行い、越後上布は完成する。

雪中に糸となし
雪中に織り
雪水に注ぎ
雪上に晒す
雪ありて縮ありき
雪は縮みの親といふべし
――鈴木牧之「北越雪謔」より――

雪と共に生きる越後の人々の知恵が、越後上布を生んだ。

*1:越後上布で使う苧麻は福島県の昭和村でしか取れないらしい。ただし、南方へ行けば宮古上布などもあるので、苧麻自体は余所でも入手可能。

*2:腰に直接経糸の片方を結びつけて、人そのものが機の一部になって織るタイプの織台のこと。地機ともいう。

*3:雪が溶けて水分が蒸発する際にオゾンが発生して布を漂白する効果がある。