ローレライ
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太平洋戦争末期。東京への原爆投下を察知した日本海軍は、特殊兵器ローレライ・システム搭載の潜水艦・伊507にその阻止を命じる。だが、乗組員たちはローレライ・システムの意外な正体を知り、驚愕する。
「亡国のイージス」の福井晴敏が平成ガメラの特撮マン(樋口真嗣)のために書き下ろした長編小説の映画版で、エヴァンゲリオンで育った世代から支持されるであろうゴミ映画*1。厳然たる史実を無視して強引に構築されたオタク向けの虚構で、太平洋戦争を題材とした映画の中ではあの「パールハーバー」('01)に匹敵する駄作。この手の作品の場合、演出側は描こうとする時代の再現性を最低限意識する必要を負うが、本作に登場する人物達は60年前の日本軍人に全然見えない*2どころか、当時の日本人のものとは思えぬ心情を次々と吐露する。広島や長崎の悲劇も演出上の道具でしかない。戦争を実体験として知らない人間は自分にとって都合の良い戦争の姿を捏造しそれを平然と語るものだが、本作はまさにその典型。前提となる世界観がこのざまであるから、ディテールのいい加減さは言うまでもない。現代の原子力潜水艦を越えるような速度で伊507が疾走し、とんでもない対象を対艦砲で狙い撃つ、などB級アニメも真っ青になるようなショットが次々と披露されるが、こんな演出で喜べるのはガイナックスや押井作品のファンぐらいのものだろう*3。また、ヘイリーの歌声と改造人間(香椎由宇)のリップシンクが明らかにズレていたり、伊507が誘爆する爆雷の中を回避する緊迫感が映像から全然伝わってこないなど、映像的なツメの甘さも目についた。役所広司や柳葉敏郎の熱演*4も、特撮やアニメ的な発想しかできない樋口監督の変なベクトルに引っ張られて見事に空振り。一線の俳優がこのような作品に登場せざるを得ないということ自体が、出資層からは儲かって見えるらしいアニメ業界*5に食いものにされていく邦画界の惨めな現状を示していて、実に寂しい限りである。
(2005,日本)