Cinema

リンカーン:スピルバーグの憂鬱

★★☆☆☆ ダニエル・デイ・ルイスの迫真の演技に不満のある人は少なかろう。レンブラントの絵画を思わせるカミンスキーの光と影の使い方にも惚れ惚れとさせられる。多彩な顔ぶれの配役も適材適所、実に申し分ない。だが、物語はあまりにも小さい。それはこの映…

クラウド・アトラス:Movie of discord

★★☆☆☆ ゼロ年代に生まれた原作を映画化した、6つのエピソードから成るクロスジャンル・ムービー。監督の一人であるトム・ティクヴァは自ら「クラウド・アトラス六重奏曲」という曲を書き、約3時間に渡って交差するその物語の中でモティーフを変奏させて作品…

ゼロ・ダーク・サーティ:映画を殺した者への、映画による復讐

★★☆☆☆ 2001年の米国同時多発テロ「9.11」は世界を変えた。TVで流された、ハイジャック機が世界貿易センタービルに突入し、炎上し、そして崩れ落ちる、あの一連の凶暴なリアルタイム映像。世界を牛耳ってきた者に対する強い敵意と反発が突然可視化された「9.1…

人生の特等席

★★★★★ 野球選手のことなら、打音で球質の得手不得手まで聞き分けることができる程のエキスパートなのに、いざ自分や家族のこととなると口下手になり、まともなコミュニケーションすらできない男。そんな父に捨てられたというトラウマから、仕事も恋愛もガー…

タイム:ゆっくりと歩くために〜あるいはガタカ2.0〜

★★★★★ 21世紀版「ボニー&クライド」であり、21世紀版「ネズミ小僧(小娘)」でもある本作。いかにもSFな設定ありきのストーリーなのだが、やっぱりこの監督はハイセンス。「ガタカ」の海を彷彿とさせるショットもあり、本作でも海は「人工的なシステムの対…

ツリー・オブ・ライフ

★★★★☆ まずは配役。'50年代の保守的な南部の街で成功することを夢みつつ、子供たちに厳しく当たる父親を演じるにはブラッド・ピットは華がありすぎるし、雰囲気的にも若すぎる。もともとクセのある変人を演じるのが得意な俳優なだけに、キャラが立ちすぎて映…

ザ・ファイター

★★★★☆ 《兄》と《弟》という二つの魂の物語をどちらも等価に描き、「一つのサクセス・ストーリー」としてまとめているところに、今の時代を感じる。本作の原題が“Fighters”でなく“The Fighter”と単数であることからも約束されているように、《兄あっての弟/…

最新映画ウォッチリスト

2010 ソーシャル・ネットワーク 監督:デビッド・フィンチャー(米)★★ 2010 トゥルー・グリット 監督:コーエン兄弟(米)★★ 2010 ブラックスワン 監督:ダーレン・アロノフスキー(米) 2010 ヒア・アフター 監督:クリント・イーストウッド(米)★ 2011 …

ロビン・フッド

★★★★☆ 『グラディエーター』同様、デフォルメ史劇の楽しさに満ちた作品。舞台となる英国はガーデニング(保守的な文化を象徴している)の長き伝統を持つ国であり、そのイングランドの保守性から脱落・対峙する無法者ロビン・フッドもまた、深き緑に彩られた…

十三人の刺客

★☆☆☆☆ カメラワークは秀逸、俳優陣も熱演。しかし、稲垣吾郎演じる暴君の残虐な描写に過剰とも思える注力がなされているのに対して、本来描くべき主敵たるライバル侍の腹の探り合いや頭脳戦、あるいは同志が増えていく過程の緊張や融和といった描写が決定的…

インビクタス

★★★★★ 沈黙から闘争、そして融和へ。円熟の匠による「マイノリティ讃歌」最終形。人は苦しみ、命は消えゆく。しかし、想いは引き継がれ、松明の灯は続いてゆく。「なぜ苦しむのはいつも自分なのか?」と問い続けながら、先へ先へと進むしかない。躓いた時や…

世代交代

スタジオジブリ次回作は新人監督を起用、発表は12月 ポニョはこうして生まれた。 ~宮崎駿の思考過程~ [Blu-ray]出版社/メーカー: ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン発売日: 2009/12/08メディア: Blu-ray購入: 2人 クリック: 14回この商品を含むブロ…

ポニョ英語版予告編ほか

PONYO ゴージャスな声優陣。米国では8月公開。国内では本日DVDがリリース。 2012 スケールのデカいVFXを見たいなら、やっぱりエメリッヒ。しかしこの人は本当にディザスターものが好きだね。 REVENGE OF THE FALLENS 変形への飽くなき偏愛あるいは米軍兵器の…

天使と悪魔/スタートレック/ターミネーター4

天使と悪魔 ★★★☆☆ トム・ハンクスのヴァチカン珍道中記。宗教も科学も人間社会を秩序づけるために人類が開発した“装置”という意味では同根であり、それを天使や悪魔に喩える不毛な二元論。それにしても、今回もまたハンクスが脇役にしか見えないのだが……。監…

グラン・トリノ

★★★★☆ これが本当に最後の出演作になるのか? と毎度ファンをやきもきさせるイーストウッドが匠の技を発揮してサラリと撮りあげた“アメリカ中西部スピリット譚”。東欧移民の老人ウォルト・コワルスキーの一徹すぎる筋の貫き方に、観ている側も思わずググゥ………

予告編ラッシュ

期待順に軽くメモ。 Star Trek(クローバーフィールドのエイブラムス版) Terminator Salvation(ダークナイト&TF風味) Red Cliff, II(偽善者による、偽善者のための娯楽大作) Transformers: Revenge of the Fallen(ド派手なベイだし……以下略) Street …

崖の上のポニョ

★★★★☆ (※ジブリ版『ゲド戦記』のネタばれを含みます。未見の方はご注意ください) 最近、日本は工業国としてよりも「漫画」や「アニメ」の国として海外の人々に認知されているようだ。が、「漫画」の歴史は意外と古い。日本人は昔から「鳥獣戯画」(12〜13…

"MADE IN JAPAN" on Hollywood

ハリウッドによるマンガ/アニメ/ゲームの実写化ブームに便乗した作品たちをリストアップ。例によって日本人が原作のものは二流の監督や脚本家がアサインされている様子だが、別格の攻殻とビバップには期待したい(月は日本公開)。 アストロボーイ(2009, …

誰が見張りを見張るのか

映画『ダークナイト』を頂点に、怒涛のアメコミ旋風が吹き荒れた2008年。来年は『バットマン ダークナイト・リターンズ』と双璧をなす『ウォッチメン』がいよいよスクリーンに登場する。ヴェトナムにせよ、同時多発テロにせよ、国家や指導者は「偽の英雄」を…

おがさん、ふたたび

東京都現代美術館で開かれた男鹿和雄展のDVDがまもなくジブリから発売される。会場で販売されていたパンフレットは発色に難があったので、映画本来の使われ方と同じ映像でのリリースは嬉しいところ。「トトロの森の男鹿和雄」と紹介されることが多いのだが、…

クリスタルスカル

「インディ・ジョーンズ4」正式タイトル発表 水晶髑髏の王国。水晶頭蓋骨の王国。どちらも響きがよくないので、キングダム・オブ・クリスタルスカルが無難か。インディ・パパは未登場。インディを誘惑するのはたぶんケイト・ブランシェットということで、ハ…

アップルシード続編

脚本が『戦国自衛隊1549』と同じ人間だと知った時には「終わったな…」とさえ思ったが、制作のジョン・ウーとテレンス・チャンが半年かけて脚本にかなり手を加えた模様。最新の予告編を見るかぎり、いかにもジョン・ウーが好きそうなアクション・シーンが目白…

スピルバーグの憂鬱〜トランスフォーマー

★☆☆☆☆ TV Bros.(8月4日号)の監督インタビュー記事より抜粋。 TV Bros.「トランスフォーム・シーンがほぼワンカットで撮られていて驚きました。とても大変だったのでは?」 マイケル・ベイ「ワンカットは意識してやった。観客にはごまかしナシで変身のすべ…

アップルシード続編

EX MACHINA(エクスマキナ) 細野晴臣氏が音楽担当ということで、観に行く理由が出来てしまった。原作のファンには自明のことだが、現在市場に出回っている攻殻機動隊とアップルシードの映画やTVシリーズはいずれも士郎正宗の提示した世界観だけを借りて乱造…

ロッキー・ザ・ファイナル

★★★★★ 誰もが《自分自身のエゴ》に潰されそうになりながら、それぞれの一生を戦っていかねばならない。何をやってもうまくいかない。これ以上、ムキになって戦うことに意味なんてあるのか? 構わないでくれ、どうせこれが俺の人生なんだよ……。 だが、諦めな…

脳に釣り糸を垂らす

本日のNHK特番に出てきた言葉。もちろん釣り糸を垂らす先には魚がいないといけない。質がよいとはとても言えない取材内容だったが、宮崎監督がシンプルな絵へと転じていく過程や息子の映画*1に憤った場面等は普通に描かれていた。ただし不肖の息子からの言い…

宮崎駿監督、次回作は金魚姫

宮崎駿氏“長男教育”反省し次作製作(スポニチ) タイトルは「崖の上のポニョ」。人間になりたいと願う金魚の姫ポニョと、5歳の男子・宗介の物語。宮崎監督が04年に社員旅行で訪れた瀬戸内海の町を気に入り、翌年春に一軒家を借り切って2カ月ほど滞在。その間…

SAYURI

★★☆☆☆ 公開当時、劇場で観るのを躊躇った作品。今日は“米国のプロデュース”で日本国憲法が公布されてちょうど60年の節目ということもあり、迷走する超大国アメリカと日本の“普通じゃない関係”について考えつつ鑑賞した。内容は予想していた通り。花街のセッ…

マリア/孤独な声/セカンド・サークル/クリミアの亡霊/モレク神ほか

新文芸座で2回に渡って開催されたアレクサンドル・ソクーロフ作品特集。オールナイトにも関わらず、劇場はかなりの盛況。露文の学生やロシア映画に飢えた連中が集まったようだ。さて、タルコフスキーの後継者ともいわれるソクーロフだが、歳を重ねるにつれ…

ワールド・トレード・センター

★★☆☆☆ オリバー・ストーン最新作。政治色の強かった前作「アレキサンダー」と比べると、同じ監督が作ったとは思えないほど小さなスケールでまとまっている。「ここには政治はない*1。この映画は勇気*2と生存を描いている」とストーン自身が語っているように…