氷上のチェス

orpheus2006-02-21

日本×スイス
前半、日本チームを苦しめたのはストーンを大きくカールさせてしまう氷だった。林も小野寺も思うようにヒット&ステイが決まらず、第4エンドには4点の大量失点を許してしまう。チームワークが売りの日本チームには珍しく、第5エンドにはラインコントロールとスイーピングの息が合わない場面も見られた。その日本が自分らしさを取り戻したのは第6エンド。コントロールの効いた林のガードがセンターにぴたりと決まるとスイスはヒットを失敗、日本のストーンはハウスの中へ。小野寺の置いたストーンに誘われたスイスはミスを連発し、日本はスチールを奪った。この試合で日本の作戦が最も成功したのは続く第7エンド。リードの目黒がガードストーンを好位置に置くと、本橋はフリーズ、林はカムアラウンドを完璧に決め、狼狽したスイスは自分のストーンをハウスの外に出してしまう。精度を上げてきた日本の攻撃にスイスはたまらずタイムアウトしたが、小野寺が絶妙な位置に置いたストーンをダブルテイクアウトすることはできず、日本は連続でスチールを決めた。そして勝負は運命の第8エンドを迎える。防衛線を固める日本に対し、スイスは再び得意なヒット攻撃による正面突破を図った。ここで日本はミスをおかしてしまう。ガードストーンを中央に密集させすぎて、自分のカムアラウンドさせたストーンをテイクされやすい形にしてしまった。もちろんそのチャンスをスイスは見逃さない。サイドから翻弄してくるスイスに気をとられ、センターラインは手薄になっていく。要のガードを剥がされた日本は林が弱めのレイズで応じたが、スイスはこれをダブルテイクアウト。小野寺もカムアラウンドで足場を築こうとするが、これもスイス得意のヒットではじかれ、気がつけばハウスの中はスイスのストーンで埋まっていた。そして起死回生を狙った小野寺のラストストーンはウエイトが僅かに足りず、フリーズすることができなかった*1。このストーンがスイスにヒット&ステイされた瞬間、チーム青森トリノ五輪は終わった。前半の5点差を2点差まで追い上げた日本だったが、残り2エンドで6点差を取り戻す力はもう残っていなかった。全力を出し切ったという思いがあったのだろう、決断を下した小野寺の表情はとても清々しかった。“氷上のチェス”とも呼ばれるカーリングの面白さ、奥深さを教えてくれた日本チームの健闘に心から拍手を送りたい。

*1:このショットのもたらした危機を誰よりも分かっていた小野寺は「(自分のストーンが)丸見え……」と苦笑いしていた。