子龍氏、引退

インターネットが始まる前、ニフティ草の根BBSで彼のMIDIデータに触れた人も多いであろう、あの子龍氏(私は作曲者の山口氏のことしか“子龍”と認めない)がひそかにユニットを解散していた模様。金子氏と組んでからの子龍サウンドには強い違和感を覚えていたので、解散は個人的に歓迎したいぐらいなのだが、相方の金子氏の主張するところによれば、なんと山口氏は音楽の世界から完全に去ってしまったという。ユニットとしての子龍が失敗した理由はいろいろあるだろうが、山口氏を“売り出そう”とした金子氏にプロデューサーとしての資質と責任感が欠けていたことは、下に引用させていただく金子氏の発言からも容易に想像がつく。また「イマージュ」などというゴッタ煮の癒し系アルバムで切り売りされて終わったことも、純朴を旨としてきた子龍サウンドがこの国のスノッブな音楽業界に消費され、使い捨てにされた典型的な事例に思えて仕方がない。安定した仕事を投げ捨てて音楽の道で生きていこうと奮闘した子龍氏(山口氏)の挑戦はひとまず終わりを迎えることになってしまったが、彼の「心象夜景」や「大星夜」の輝きは不滅である。
子龍の終焉(Blog@shiryuより抜粋)

子龍の音楽に興味があってこのブログを読んでいる人の中には「一体子龍は何をやってるんだ?」と思ってる方もいらっしゃるでしょう。結論から言えば、何もやってません。原因は、昨年の夏のNHKの「日本人カメラマン 野生に挑む」の仕事を最後に、山口が音楽の世界から引退してしまったからです。一昨年から山口は家庭の事情で音楽活動を続けるのが困難になって来て、ついに昨年の2月頃引退を決意しました。そして進行中だったNHKの仕事が終わった時点で正式に引退しました。もちろん僕はなんとか活動を続けることが出来ないかと、最後の方はケンカ腰になるまで話し合いましたが、彼の決意は固く、引き止めることは不可能でした。山口は自分でBBSに引退の挨拶を書くと言っていましたが、結局それもないままに去って行きました。おそらく再就職など新たな生活に追われ、それどころではなかったんでしょう。僕も活動停止以来子龍のことに関わるのが気分的につらかったので、ここまでずるずるとほったらかしになっていました。しかしもはやあれから10ヶ月が過ぎ、いい加減区切りを付けなければという気になったので、ここで正式に子龍の解散、活動停止を発表することにしました。

子龍の活動停止後、周囲からは別の形で音楽活動を続けて欲しいということも言われ、僕自身も考えてはみたのですが、今のところどうにも音楽に対するモチベーションが下がってしまっていて、踏み出すことが出来ないのが現状です。ここしばらくのこのブログを見てもらえば分かると思いますが、音楽の話はほとんど出て来てませんよね(笑)。もともとユニット「子龍」は僕が山口の作曲能力に惚れ込んでプロの世界に引きずり込んで始めたもの。(それ以前は山口が単独で「子龍」を名乗り、MIDIファイルの形でアマチュアとして作品を発表していました。)その山口が引退してしまった今、僕一人か、あるいは他の誰かと組んだとしても、子龍以上の仕事ができるとは思えません。それならば無理に音楽作りの仕事にしがみつく必要もないのではないか、と思うようになりました。先のことは分かりませんが、現時点では僕も子龍と別の形で音楽活動を続けようという気にはなれません。むしろヒーリングとかスピリチュアル系のことに関心が向かい、音楽については今は積極的な関心が持てないというのが正直なところです。

>子龍さんを飯の種に使っただけでは?(公式サイト掲示板より)

ある意味ではその通りです。子龍を一人前のプロとして成功させようと奮闘し、主にそのビジネス面を担当していたのは僕です。ただし、以前勤めていた会社を辞め、音楽の仕事一本でやって行きたい、と言ったのは山口からでした。僕も子龍が成功して行く過程でいつかは乗り越えなくてはいけないハードルだと思っていたので、彼がそう言うのなら、ここで勝負に出よう、と思いました。それまでの子龍はいわばセミプロで、二人ともその仕事に「生活」はかかっていませんでした。

山口は会社を辞め、子龍の仕事一本に集中するようになりました。当然そこに「生活」をかけるわけですから、仕事は厳しさを増し、一ヶ月20曲近くを仕上げなければならないようなケースも出て来ました。しかしそのぐらいは映像音楽をやっている一流のプロなら誰でもやっていることです。勝負に出た以上、逃げるわけにはいきませんでした。必要に迫られて僕から山口に厳しい言葉をぶつけることもありました。

そして次第に我々は精神的、肉体的、経済的、物理的に追いつめられ、限界を迎えました。もはや我々の間に以前のような信頼関係、チームワークはなくなり、最後は喧嘩別れと言っていい状態でした。山口は引退を決意し、僕もそれを受けて子龍に幕を下ろすことを決意しました。

これが解散に至る経緯です。これをもって「金子は山口を商売に利用した」と言えば、その通りかもしれません。ですがフルタイムのプロミュージシャンとしてやって行こうと決意し、勝負に踏み出したのは僕が勝手に決めたことではなく、山口が先に言い出し、二人で話し合って決めたことです。そして我々はその勝負に敗れました。残念ですが、我々にプロとして音楽の仕事一本でやって行けるだけの実力はありませんでした。子龍を細く長く存続させるためには、山口がサラリーマンの仕事を辞め、フルタイムのプロミュージシャンとして踏み出したことは結果的に失敗でした。しかし、自分たちで選択し、自分たちなりに全力を尽くした結果です。受け入れるしかありません。山口もこのことは納得してると思います。

あれほど「ネット仲間に気を遣う人」だった子龍氏がファンの人達に挨拶もせずに立ち去ったのは余程の事。信じていた相方に利用された、裏切られたという無念の想いがあったと察する。