スピルバーグの憂鬱〜トランスフォーマー

orpheus2007-08-16

★☆☆☆☆
TV Bros.(8月4日号)の監督インタビュー記事より抜粋。

TV Bros.「トランスフォーム・シーンがほぼワンカットで撮られていて驚きました。とても大変だったのでは?」 

マイケル・ベイ「ワンカットは意識してやった。観客にはごまかしナシで変身のすべてを見せたかったからだ。それを可能にした影の功労者はILMの日本人スタッフ、ケイジ・ヤマグチ(山口圭二)だよ。彼はオプティマス・プライム(コンボイ)のデザインで行き詰っていた僕たちに『こんなの日本人に対する侮辱だ!オレが全部やり直す!』と叫んで、実際やり遂げたんだ。あのルービックキューブのようなトランスフォーム・シーンは全部ケイジの功績、彼は天才だよ。」 

コンボイの名にかけて! あの変形は外国人には表現できまい。

TV Bros.「日本のアニメの影響を強く感じますが、どんな作品を参考に?」

マイケル・ベイ「日本のアニメは大好きで、とりわけ怪獣とロボットものはアートワークが独特で凄く惹かれていた。この映画のためにも、それこそ浴びるように見たんだけど、ごめん!タイトルをまったく覚えていないんだ」

日本文化に対するハリウッドの目線がよく分かる発言。まあ、確かにロクな文化じゃないけど、『パール・ハーバー』の監督に言われたくないよなあ。
普通、映画監督は自分で撮った作品のテーマやストーリーを熱っぽく語るものだが、このインタビュー記事にはそれが全くない……というより、それに触れてはいけないのである。これがニコニコ動画ならば「才能の無駄遣い」のタグ乱舞まちがいなしの変形への偏愛だけがウリのVFXムービー。子連れの家族が劇場アニメのついでに見るのにちょうどよい、暑くて何も考えたくない夏休みにぴったりの娯楽作、それがトランスフォーマーなのだ。「なんだろうね、この内容のなさは」「きっと日本製だよ」。
(2007,アメリカ)
だが、やっぱり「何かおかしい」。
アメリカン・グラフィティ』や『アルマゲドン』あたりを下敷きにしつつ収拾のつかなくなった脚本、『スター・ウォーズ』(新シリーズ)、『マトリックス』、『アップルシード』といった作品の影響が濃厚で新鮮味に欠けるVFXシーン、太平洋両岸の男子が喜びそうなネガティブな主人公とヒロインのキャラクター造形(CGのような硬い目鼻立ち+マニアックな特技)、観客を置きざりのまま展開していく戦闘シーンの連続……とツッコミどころが満載にも関わらず、米国で本作がここまでヒットし、次回作の制作も決定したのはなぜか?
それは、本作が子供向けの映画を装った米軍の最新兵器の宣伝映画だからである。制作総指揮のスピルバーグの発言がさえないのも当然だ。若い頃はピーターパンのように大人社会を皮肉ってきたスピルバーグ(『未知との遭遇』『ET』)だったが、『シンドラーのリスト』で人道的な資本家(実にユダヤ人的な視点だ)を描いて権威(アカデミー)の仲間入りをすると、皮肉は形式的なものとなり、どんどん右傾化していった。『プライベート・ライアン』『バンド・オブ・ブラザーズ』『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』といった作品は米軍の全面的な協力なくしては作れない代物だ。そしてこの『トランスフォーマー』では、まだ実戦投入されていない最新兵器が画面上に所狭しと登場する。世界中に影響力をもつスピルバーグ映画の画面のなかに、水を得た魚のごとく産軍複合体の“新製品”の攻撃シーンが挿入されているではないか! パワーに憧れる男の子は「かっこいいね、ママ!」と無邪気に叫び*1、Hasbro社のバンブルビースタースクリームを買い求め、いずれは劇中のレノックス大尉のような「家族と国を愛する」兵士へと育っていくことが期待されているのだ。本作のVFXシーンは迫力がある。それも当然だ。リアリティを持たせるための軍の協力が手厚かったからだ。国防の要であるペンタゴン内部にカメラが入り、極秘だったF22の撮影許可が下りたのはなぜか? あの米国での大ヒットは誰が支えているのか? そもそも、おもちゃの促販映画がどうしてこんな巨大プロジェクトに膨れあがったのか? 商業娯楽映画を装い、世界中に“アメリカの毒”を垂れ流すスピルバーグに対し、往年のファンとして意義申し立ての意味を込め、星1つの評価としたい。
追記:トランスフォーマーを四半世紀追いかけてきたコアなファンの方から、トランスフォーマーの基本コンセプトは「君が選ぶ、君のヒーロー!」という話を聞いた。となると、あの焦点の定まらない脚本もアリなのかもしれない。が、劇場で始めてこのシリーズを観た客はそうしたファンの約束事は知らないのであるから、やはり脚本はもっと工夫して欲しかった。とりあえず、「撮影中に産軍事複合体の新製品が次々と追加されたために、脚本に一貫性がなくなって破綻した」としておく方が、このエントリの流れ的には良さそうではある。
ILMの山口圭二(アニメーター必見)(シネマTODAY)
映画トランスフォーマー メイキングシーン
いろんなものをロボットに変形させてみた

*1:父親は男の子の延長なので説得する必要はない。財布の紐のみならず、自由の紐をも握る母親こそ、少年が最初に乗り越えなくてはならない相手なのである。