肉体喪失の危機

orpheus2008-10-15

AC/CD、iTunes storeでの新作販売をボイコット

AC/DCが行うウォルマートでのCD独占販売は、過去にイーグルスとジャーニーが行い成功を収めている。(略)ネットショッピングに対抗する為にDVD付きなどのスペシャルエディションを低価格で販売する方法で、廉価での販売にも関わらず中間業者を通さない方法で薄利ながら利益を挙げている。(中略)その昔“音楽の価値を著しく下げる”とスーパーや家電量販チェーン店のブロックバスター価格に批判が集中した時期もあったが、ネットショッピングやダウンロード全盛でレコードチェーン店などが廃業に追い込まれて行く中、大きな集客力を持ち、どの地域に行っても大概はあるウォルマートの店舗でのCD販売はパッケージビジネスにとって、ネット通販に唯一対抗できる最後の砦になっているのが実情だ。

自社のプラットフォームでユーザーとコンテンツを囲い込むのがビジネスの鉄則*1とはいえ、それがマスプロダクトとして世界中に氾濫しすぎると正直、気持ちが悪い。かつて一大帝国をめざしたアッリシアの末裔よろしく、スティーヴ・ジョブス*2が累々たる自社プロダクトデザイナーの屍の上に生み出される「クールな新製品」をあれほど喜々としてセールスできるのは、もちろん彼がアップルCEOの立場から自分の夢と野心をリアルタイムに実現していくゲーム*3を心の底から楽しんでいるからに他ならない。マーケットにおいて、そうした企業の製品が「選択肢の一つ」であるうちはまだよいが、それがICT*4の牽引する経済統合の波に乗って「世界規模の画一化」をもたらすプラットフォームになってしまうと実に厄介だ。それは別にゲイツMicrosoft)であろうとストリンガー(SONY)であろうと、岩田(NINTENDO)*5であろうと同様である。私としては、これらのマーケットの囲い込みの動きと並行して進む、ダウンロード販売・ネット通販といった、やはりネットが中心となる流通システムへの強制参加*6に対するこうしたロックな試みを――実にささやかな抵抗ではあるが――《反》全体主義者の立場から、そして何よりもジャケ買い派として賛同したい。

*1:囲い込みの成功例として、ディズニーランドやルーカスのスターウォーズ・ユニバースが挙げられる。

*2:ジョブスはシリア系のアメリカ人。経営者としての彼については「民主主義に従ってたら、素晴らしい商品なんて創れやしない。闘争本能の固まりのような独裁者が必要だ」と評した元アップル社員の意見が興味深い。

*3:ジョブスがルーカスから買ったピクサーをディズニーに“転売”することでディズニーの役員に就任したこと、かつ一度はクビになったアップルで今度は(CEOにも関わらず)労働の対価をあえて受け取らずに“フリーな立場”に留まっていることを考えると、アップルもピクサーも彼にとっては単なるチェス上の駒にすぎないのだろう。

*4:最近はもはや“IT”とは呼ばなくなってきている、らしい。

*5:DSやWiiにおいて、任天堂は「ニーズのないところまで油をまいて火を放つ」という営業戦略をとっている。同じ関西出身の企業でも松下幸之助の「水道の哲学」に比べると実に強欲。「遊んではみたけれど、ゲームなんてやっぱり必要ない」とマーケットが沈静化した時に、ヘビーゲーマーの戦場でシェアを獲得できずに再び没落することが予想される。もちろん、そうなる前に大胆な転身をまた図るとは思うが。なお、任天堂Wiiリモコンを用いた“運動系”のゲームジャンルを開拓したこと自体は評価したい。

*6:流通の簡素化というメリットもある半面、コンテンツの作りや装い、果てには創造の動機までもが「プラットフォームのコンセプト」に殉じることを強要される懼れがある。実際、iTMSではそれが既に起こっている。