晩婚〜汝、それを奇跡と言うなかれ
一昨日のTV番組で若い女性芸能人が「40代の未婚女性が結婚できる可能性は1%で、結婚は奇跡に近い」という趣旨のことを言っていた。1%とはずいぶん厳しい数字だ。気になったので1955年から2005年までの国勢調査を眺めたところ、たしかに右肩上がりの「未婚率の上昇」傾向が調査結果から明白に見てとれる(特に、男女雇用機会均等法が施行されて女性の社会進出が本格的に始まった1985年以降、女子の未婚率が急上昇していることは注目すべきだろう。ただし2002年度のOECDの調査によれば、日本では週45時間以上働く男性が4割いるのに対し、女性は2割に満たず(女性の正規雇用が少ないということを意味する)、均等法の導入後も日本は相変わらず男性中心社会であり、女性側の「働くことが最優先で、結婚どころではない」という事情が現れている)。
年齢別未婚率の推移(男子)
年度 | 20代後半で独身 | 30代前半で独身 | 50歳で独身*1 |
---|---|---|---|
1955年 | 41.0% | 9.1% | 1.2% |
1960年 | 46.1% | 9.9% | 1.3% |
1965年 | 45.7% | 11.1% | 1.5% |
1970年 | 46.5% | 11.7% | 1.7% |
1975年 | 48.3% | 14.3% | 2.1% |
1980年 | 55.1% | 21.5% | 2.6% |
1985年 | 60.4% | 28.1% | 3.9% |
1990年 | 64.4% | 32.6% | 5.6% |
1995年 | 66.9% | 37.3% | 9.0% |
2000年 | 69.3% | 42.9% | 12.6% |
2005年 | 71.4% | 47.1% | 15.4% |
年齢別未婚率の推移(女子)
年度 | 20代後半で独身 | 30代前半で独身 | 50歳で独身 |
---|---|---|---|
1955年 | 20.6% | 7.9% | 1.5% |
1960年 | 21.7% | 9.4% | 1.9% |
1965年 | 19.0% | 9.0% | 2.5% |
1970年 | 18.1% | 7.2% | 3.3% |
1975年 | 20.9% | 7.7% | 4.3% |
1980年 | 24.0% | 9.1% | 4.5% |
1985年 | 30.6% | 10.4% | 4.3% |
1990年 | 40.2% | 13.9% | 4.3% |
1995年 | 48.0% | 19.7% | 5.1% |
2000年 | 54.0% | 26.6% | 5.8% |
2005年 | 59.0% | 32.0% | 6.8% |
2005年に50歳を迎えた未婚者(統計上、そのまま独身のまま生涯を終えると見なされている人)の割合は男で15.4%、女で6.8%に達しているが、彼らが生まれた1955年にはそれぞれの比率は1.2%、1.5%だった。日本で核家族化が進んだのは'60年代以降だが、大家族や親族間の関係性が強固であった頃には「働き始めた男は結婚して所帯を持つのが当然で、彼らに子孫を増やすよう奨励するのは家族や親族の責任」という社会的なコンセンサスもあった。企業が「大家族の代用品」として機能し得た古き良き時代、すなわち高度経済成長を背景として進展した核家族化は、平成の世になって「単身の高齢者」を大量に生み出したが、次の記事のように「結婚はリスク」と考える女性が増えているのが事実だとすれば、近い将来、日本は「未婚で単身の高齢者」で溢れかえり、少子化の歯止めもきかずに、アジアの強国の傘下に屈するしかないだろう(アメリカは金融恐慌で覇権を失っており、軍事的・外交的に日本を庇護する余裕などなくなっている*2。
40代の子憂う親たちでにぎわう「お見合い」ビジネス 現在40歳前後の女性は「男性優位の社会と戦い、キャリアを持つことで女性の権利を主張した先駆けの世代」に属する。彼女たちはいわゆる適齢期を仕事づくめで過ごし、一方で社会にはキャリアと家庭生活の両立を保証する用意がなかった(中略)。この世代の日本人の多くには、苦労して手に入れたライフスタイルを手放すことは何であれ避けたいという思いがあり、「結婚や家庭を築くことはリスク」ととらえられているという。
2005年の国勢調査には「20代後半女性の28.1%が一生結婚できない*3」という例の物議を醸した報告があるが、いわゆる現代の適齢期(つまり、高齢出産のリスクを避けたい女性たちが適齢期と見なしている)「30代前半」でさえも未婚率は男子で5割、女子で3割に及ぶ。自分が「結婚の限界点」を通過してしまったと感じた30代後半の女性は結婚に対する意欲や希望を急速に失うため、諦めきれない老齢の親が本人たちに代わって「婚活」に奔走するという構図が出てくる*4。
孫を欲しいと思う親のなかには、子どもの年齢がネックとなることに気付き落胆して帰る人もいる。ある父親は、43歳の娘の写真を誰も手にとってくれなかったと意気消沈して会場を後にした。一方で、36歳の息子の妻となる女性の年齢は31歳まででなければ絶対にだめ、という母親もいた。
「結婚」に対するコンセンサスが失われ、本人たちの「選択」の問題でしかなくなりつつある時代に、親が「責任感」を引っ提げて介入するのは無意味とは言わないが、出会い系とさほど変わらない「晩婚サービス業者」を喜ばせるだけの気がしなくもない。第一、付き合いを始めるきっかけを他人から押しつけられては、結婚へと至る愛の炎もなかなか燃え上がるまい。現代のカップルが結婚を躊躇する理由はおそらく三つで、結婚に対する願望と懸念の肥大化、将来に対する不安、現時点での経済的な問題があると思うが、三番目については「少子化対策」の前に「婚活支援」が必要かもしれない。だが、実の親でも難しいものを、赤の他人である国家にいったい何ができよう? 現実逃避をしたい人は、ピクシー&ディズニーの新作“WALL-E”をご覧になるべし。なんとキャッチコピーは「700年の孤独が生んだ《奇跡》」である。まさに「究極の晩婚ストーリー」ではないか!
*1:50歳時の未婚率を「生涯未婚率」と呼ぶ。50歳時のサンプリング調査は統計の継続性から今後も続けるべきだが、最近は中高年の結婚も増えてきており、生涯未婚率を50歳時で判定するのが適切かどうかは議論が必要だと思う。
*2:現実問題として、日本の領土を我がもの顔で侵犯している中国の原潜や調査船を日本政府は止めることができずにいる。
*3:20代後半の独身女性のうち「2人に1人は30代前半でも結婚できない」という調査結果を受けて「そのまま一生結婚できない」という厳しい推論を示したもの。
*4:これを仮に親が子供に施す広義の「教育」と見なすならば、しかるべき「教育」を怠ってきた、または面と向かって子供に伝えるべきことを伝えずに回避してきたツケはあまりにも大きかったことになる。年老いてからでは親も子供もキツイ。モラトリアムと非難されるべきは、なにも子供だけではないと思う。