ザ・ファイター

★★★★☆

《兄》と《弟》という二つの魂の物語をどちらも等価に描き、「一つのサクセス・ストーリー」としてまとめているところに、今の時代を感じる。本作の原題が“Fighters”でなく“The Fighter”と単数であることからも約束されているように、《兄あっての弟/弟あっての兄》であるという「コインの表と裏」の関係性を保ちながら、二人とも危機を乗り越えて、共通の夢を実現する。思うに、共和党政権下のあの同時多発テロで始まった2000年代が「他者とのコミュニケーション不在」の泥沼的“Fighters”状況から『ノーカントリー』の絶望の淵へと転落していったのに対し、民主党政権下の2010年代はその反動からなのか、本作や『ヒア アフター』のように「他者とのフラットな関係」をめざす“The Fighter”的共感を観客に披露する作品が増えてきているようだ。もっとも、そうした「キレイゴト」が蔓延る風潮を嫌って『ソーシャル・ネットワーク』や『キック・アス』のようなアクの強いカウンター作品が早速登場してきていることからも分かるように、現実の社会はまさに“Fighters”だらけなのである。誰もが勝者となれる「美しい楽園」など、この世には存在しない。しかし、この兄弟の「成長のための戦い」を描いた実話には、冷徹な現実を超えて「楽園」の門へと至る「幻想」を観客に抱かせるだけの力があることもまた確かだろう。個人的にはあまり好きではない題材なのだが、マーク・ウォールバーグの映画化への執念とクリスチャン・ベールの迫真の演技に「ノックアウト」されたので、4点を進呈。

監督デヴィッド・O・ラッセル, The Fighter, 115mins, 2010。