パリ・ルーヴル美術館の秘密

orpheus2006-05-07

★★★★☆
風変わりなドキュメンタリー。ナレーションが一切なく、BGMも最低限しか挿入されていない。キャメラはただ淡々とルーヴルの職員たちの姿を追っていく。ただでさえエリート主義の強いフランスで、モナ・リザやミロのヴィーナスといった有名な作品と毎日向き合っている人々である。さぞ近寄りがたい面々が集結しているに違いない...と思って見ていたが、意外なことに、本作ではそうした権威的な学芸員のみならず、ともにルーヴルで働く画家や写真家、科学者、調理人、鉛管工、警備員など、様々なスタッフが同じ目線で描き出されている。これが平凡なドキュメンタリーであれば、35万点の所蔵品の中からどの作品を選び、30,000㎡の展示スペースにどのように展示し、世界中から訪れる観光客をどう満足させるかといった華やかな部分に焦点が当てられるところだが、この映画ではそうした描写はごく僅か。そこには過剰な音楽や異常な照明、場違いなレポーター等は存在せず、世界最大の美術館で働く人々の“ありのまま”の姿が捉えられている。さて、こうした美術品がどういう経緯で入手されてきたかという問いはさておき、800年に渡って膨大な文化遺産を保存し続けるという労力は、やはり並み大抵のものではない。1200名の職員から成る巨大な組織。自己主張の強い人々が、黙々と自分の努めを果たしていく。文化を守るということは、かくも地道で静かな営みなのである。ニコラ・フィリベール監督。85分。

(1990, フランス)

追記:ルーヴルの日本語公式サイト資生堂が提供しているのだが、2004年から放置されたまま更新されていない。日本人のファインアートに対する情熱はこの程度なのだろうか。また、日本企業がバブル期に海外から高値で買い漁り、閑古鳥が鳴くような国内の美術館に寄贈した多くの美術品も、今は忘れ去られてしまっている。芸術の価値を理解せず、作品を一時的な投資の対象として捉える事しかできない企業は、金も口も出すべきではない。

※上記のサイトにリニューアルの告知が掲載された模様。資生堂の対応が本物かどうか、その後の更新状況を見守っていきたい。(2006.05.14 追記)