グランドピアノ、売却へ

orpheus2007-02-26

先日書いた我が家のグランドピアノだが、実家には置くスペースがないということで、やむなく売却することになった。ヤマハに問い合わせたところ、輸送費込み21万円で買い取るという回答があった。他のピアノ業者からは31万円で引き取りたいという条件も提示されたが、売却後にピアノ工場でバラしてオーバーホールを行い、弦や鍵盤を全部交換した上で中古ピアノとして再び店頭に並ぶまでのプロセスを考えると、売却額こそ下がるものの、製造元のヤマハに引き取ってもらって、最新鋭の掛川工場で“再生”してもらうのが筋だろうと思う。
グランドピアノの漆黒のボディは木製で、年代が経つと質感が増し、独特の風合いをもつ。調律や本格的なメンテナンス(17万円程度)で新品よりも手間も金もかかるが、年を重ねることで生まれた風合いは新品にはない魅力で、中古ピアノの市場価格があまり下がらないのはそういった理由にもよる。これはピアノを模したキーボードやデジタル楽器にはない価値といえるだろう。なお、我が家のグランドピアノC3Bは昭和50年頃に作られたもので、人間でいえば30歳ぐらい。未経験がゆえのほろ苦い青春時期を終え、いよいよ本格的に人生を深めていこうという年齢である。彼女(彼?)が生まれ変わって、新しい弾き手に出会う日もそう遠くはない。
アコースティック・ピアノという楽器はまだ誕生してから300年程度しか経っていない。これは数ある西洋楽器の中でも比較的新しい部類に入るが、19世紀にスタンダードな形が定着して以降は進化の歩みを緩めている楽器でもある。変わるものと変わらないもの。職人の技術の粋を集めた荘重な倍音の響きはそのままに、YAMAHAやKAWAIには、新しい時代に似合う新しいアコースティック・ピアノの開発を慢心せずに追求して欲しいと思う。
年を取るのはもちろんピアノだけではない。それを弾いたり聴く側も音色の好みは変化していく。自分の場合でいえば、80年代はヤマハのlylicalでdelicateな音、90年代はスタインウェイのcolorfulでvividな音、21世紀に入ってからはベーゼンドルファーのドンと構えたdignifiedな音が好きで、振り返ってみると、曲作りでも気が付かずにそうした音色を使っていたように思う。さらに年を重ねたら、またヤマハの音色に戻っていくのだろうか? ピアノ職人たちに言わせれば「ピアノは一台一台の音色が異なる」ので、こうした印象はあくまでも“音の傾向”にすぎない訳だが、それでも次のようなことを想像せずにはいられない。
フレデリックが今の時代に生まれたら、きっとヤマハのピアノを好み、フランツはスタインウェイを好んだことだろう。ルートヴィヒはお馴染みの“しかめっ面”でベーゼンを弾き倒すに違いない。もっとも、彼の気性ならば間違いなくハードロックの世界に行ってしまうだろう。ジェフやリッチーと共演するベートーヴェン! ライブに至る前に解散すること間違いなしのheavyな顔合わせである。
楽器の音色の違いにも耳を澄ませると、音楽は何倍も楽しくなります。
ヤマハピアノのあゆみ
ヤマハのデザイン